20××年夏。釜石線花巻駅。SL復活に沸く花巻駅のホームで、写真家を目指す少女・千秋は、乗車券を買い損ねるが、ひょんなことから目の不自由な老婆とSLに乗り、釜石へ記憶探しの旅に出る。
釜石へ近づくにつれ鮮明になってゆく老婆の記憶は、やがて客車の空間の中に浮かび上がり始め、その記憶の肖像の中に、いつしか千秋自身も入り込んでゆく。
ひときわ響く汽笛とともに、客車の中には終戦間際の後藤野飛行場の勤労奉仕の情景が繰り広げられる。そこで出会う国民学校の教官たちや特攻兵たち。老婆は彼らから未来への願いと約束の手紙を託され、千秋は戦争の最前線に立つ彼らの葛藤や、切ない思いを知る。
釜石に降り立つ二人。
しかし、そこは、すさまじい警報と大地を揺るがす艦砲射撃の轟音が響く、昭和20年8月9日の釜石だった。すんでのところで医師・佐藤と詩人・高村の二人に助けられ、SLに飛び乗る。
佐藤は病人、けが人の命を、高村は大和魂を、青笹で乗り込んだ大工は東京の復興を、遠野で徴募に来ていた青森野辺地行きの軍人は本土決戦に向けて決意を、各々声高に叫び、自らを鼓舞する。そして土沢。老婆は、乗り込んできた不思議な男に声をかけられ、若き国民学校教諭、及川の姿に。特攻兵から託された手紙には、艦砲射撃を合図に、自分たちに特攻命令が下されること、お互い守るべきものを見失わず、生きて再会しよう、死しても銀河の碑となって百年先まで光を届けようと書き込まれていた。使命感を思い出し、花巻国民学校の子供を救いに行こうとする及川。
運命の似内駅は目前に迫る。必死に乗客を守ろうとする運転士や駅員。発車を急がせる軍人の命令で、再び一部の乗客を乗せて発車しようとしたSLを、空襲の爆撃が襲う。多くの人の死を前に、震え上がる千秋に、及川は手紙と子供たちの命を託して絶命する。高村と佐藤は千秋を必死に励まし花巻駅へ向かう。
燃え盛る花巻駅前で、千秋は、日本の敗戦を予告するが、高村らは自分の人生を必死に生きた証を残すことが戦争を食い止める碑になると説得し、手紙に書かれた防空監視硝聴音壕へ送り出す。
・・・気づくとそこは乗車前の花巻駅。
現代のホームに戻った千秋は、高村の終戦の詩の存在を知り、彼の本心を知る。千秋は、群衆をかき分け、SLに刻まれた「過去の記憶」を、高村の詩碑のともに「SLは何も語らないけれど悲しい記憶を背負っている。戦場はすぐそこにある!」と叫ぶが必死に訴えるが、沸きかえる市民はなかなかその声に気付かない。
その彼女にそっと手を差しのべる帽子の男と死んだはずの老婆。「未来への碑を刻むたびに出かけよう」と呼びかけ、SLは大きな汽笛をあげて、歓声の中、再び走り出す。
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