時は幕末、太平の世の終わり頃。所は花巻市。合併前の旧・石鳥谷町、大迫町、東和町を広く取り込んでの舞台となっている。
この物語の登場人物はすべて架空である。舞台を上から眺めているかのような伝説のこびと・コロポックル。天界の歌姫・瀬織津姫。旅の芸能集団・くぐつの一座。また宮沢賢治の詩も登場するなど、いわばファンタジック時代劇ともいうべきバーチャルな世界である。
石鳥谷の昔話や大迫のわらべうた、東和の毘沙門祭りなどを横糸に、ある家族のドラマを縦糸に物語はすすむ。
街の警護などを担当する町方同心、その中の沢谷小十郎という下級武士が今回の主人公。
近頃めっきり物覚えが鈍くなった母・シズ、やさしくかしこい妻・雪、大志を抱く長男・真一郎、おちゃめな長女・蓮にかこまれて、お勤めの矛盾などはかかえながらも幸せに暮らす小十郎。その一家五人に突然ふりかかる陰惨な事件によって、世間からは仏の小十郎といわれ、慈悲あふれる武士道を求めている男が、いつしか修羅の道をさまよう。
修羅と化した小十郎にどんな救いがあるのか・・・冬来たりなば春遠からじ・・・。雪解けに顔を出したのは、小さくも可憐な蕗のとう(バッケ)だった。 |