時は、大正十四年、山のいで湯に恵まれた花巻湯本村。花巻温泉がこの地に開かれて数年。巨大リゾート開発が着々と進み、村人の暮らしも大きく変ろうとしていた。子供たちは野球というゲームに夢中になり、若者たちは温泉や鉄道に勤め、新しい時代のうねりを自分のものとしていた。
その波は、台山の奥で自らの神を守りながら暮らす孝次郎とその孫小春、正人にも波及していった。先祖代々から伝え続けられてきた信仰を、孝次郎はなんとしても伝えようとする熱心さのあまり孫の小春と口論になり、家族の絆が危うくなってしまう。
一方若者たちは、観光客のために祭りの踊りを温泉の名物にしようと意気込んでいた。そんなおり小春は電鉄で働く一馬に求婚され、幸せへ約束を手に入れたかのように思えた。しかし、誰からも祝福されるはずの御祝儀の当日、祖父孝次郎は密かに家を出てしまった。
人と人との触れ合い。そして果たすべき約束とは・・・。 |