昭和29年2月、市井では町村合併の話題でもちきりだった。
食堂を営むフク。兄哲郎が住む飯豊村成田部落は北上市への合併反対運動中だった。
昭和29年4月1日、1町5村の合併により、人口53,853人と県下で第3番目の花巻市が誕生した。
あくまで反対の住民は、子供を南城中学校に通わせたい想いから、南城地区の親戚縁者に頼んで養子縁組させるという妙案を出し、すぐさま行動した。根強い皆んなの熱意が実り、成田地区の一部が来月には花巻市に編入され、その祝賀の席に県知事も来るというのである。
花巻の中心街では、編入された成田地区の住民が手旗を振って行進していた。だが結果的に成田地区は行政上二分され、住民の間にはわだかまりが少なからずも残ってしまった。
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